AIを用いて心電図から適切な運動処方指標を推定し、簡便に運動処方ができる未来型の医療を

慶應義塾大学医学部内科学(循環器)教室の三浦光太郎助教、後藤信一助教、福田恵一教授、スポーツ医学総合センター勝俣良紀講師、佐藤和毅教授らは、心疾患患者の心肺運動負荷試験中の心電図を用い、深層学習法(A I)により換気性代謝閾値(心臓リハビリテーション処方における重要な指標)を推定することが可能であったと報告しました。

適切な運動は心疾患発症や増悪を予防するために重要とされており、心肺運動負荷試験により適切な有酸素運動レベルを評価することができます。

通常の心肺運動負荷試験は、患者さんがマスク型の呼気ガス分析装置を装着し、エルゴメーターという徐々にペダルが重くなっていく自転車を漕ぐことによって、換気性代謝閾値などの指標を求めます。換気性代謝閾値というものは、有酸素運動レベルを意味し、適切な運動レベルを提案するための重要な指標とされています。一般的には大がかりなガス分析装置とそれを解析するための専門的知識を要するため、日本においては心疾患患者さんに対してこの心肺運動負荷試験はあまり広く行われていないのが現状です。

そこで、我々は、慶應義塾大学病院で行われた心肺運動負荷試験中の心電図データから深層学習法を用いてこの換気性代謝閾値を推定できるかどうかを検証しました。これを推定できることにより、呼気ガス分析装置を必要とせず、簡便に換気性代謝閾値を求めることができるという利点があると考えました。

260名の心肺運動負荷試験を行なった患者さんの心電図データと実際に医師により算出された換気性代謝閾値を用いて、深層学習法により心電図データから換気性代謝閾値を推定するモデルを作成しました。結果、実際の換気性代謝閾値と深層学習法により推定された閾値の相関係数は0.875と非常に強い相関があることが判明しました。

 つまり、今回の研究では、深層学習法により運動負荷中の心電図データから換気性代謝閾値を推定することができることが示されました。この結果から、将来的には心電図データを記録することができるウェアラブルデバイスなどを用いて、呼気ガス分析装置を使用することなく、自宅やフィットネスジムなどで適切な運動処方を求めることができるかもしれない可能性を提示しました。これからは、遠隔医療やAI診療の時代を迎えており、このような画期的なシステムが患者さんの健康管理のサポートになる可能性を秘めていると考えられます。

本成果は、2020年10月29日に国際学術雑誌の「npj Digital Medicine」電子版に掲載されました。

論文
タイトル:Feasibility of the Deep Learning Method for Estimating the Ventilatory Threshold with Electrocardiography Data
タイトル和文:心電図データを用いた深層学習法による換気性代謝閾値推定の有用性
著者名:三浦光太郎、後藤信一、勝俣良紀、伊倉秀彦、白石泰之、佐藤和毅、福田恵一
掲載誌:npj Digital Medicine
DOI:https://doi.org/10.1038/s41746-020-00348-6