2021/01/19

中学生・高校生は「運動不足の骨量低下」と「運動しすぎのスポーツ障害」に注意!

前回の記事では、高齢の方に健康寿命を伸ばしていただくためにオススメの運動について解説いたしました。
今回はその後編として、中学~高校生のお子様がいらっしゃる方向けに、「10代の若者の運動との関わり方」をお話していきます。

・どうして思春期の運動は大切なの?
・10代のスポーツ選手が気を付けるべき「スポーツ障害」とは?
・部活や試合で怪我をしたときはどうしたらいい?
・運動が苦手・嫌いな子の運動とのつきあい方は?

そんな疑問にお答えしていきます。
今回もスポーツ医学総合センターの木村豪志先生に解説していただきました!



木村豪志(きむら・たけし)先生

慶應義塾大学スポーツ医学総合センター 助教
慶應義塾大学院在学中 大学院研究テーマ:成長期のスポーツ傷害
テコンドー協会医科学委員
2006年 鹿児島大学歯学部卒業
2013年 鹿児島大学医学部卒業
日本歯科医師免許、日本整形外科学会認定専門医、IOC Diploma in Sports Medicine(国際オリンピック委員会認定ドクター)、日本整形外科学会認定スポーツ医・運動器リハビリテーション医、日本医師会認定産業医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター(履修中)
専門:小児スポーツ医学、高齢者スポーツ医学



運動不足だと骨が作られにくくなる? 骨貯金を増やして将来の骨粗しょう症リスク低減を!

WHOのガイドラインによると、18歳以下の青少年には1日あたり60分以上の運動が推奨されています。
運動不足の学生の場合、心配になってくるのは骨密度。骨は負荷がかかることによって強くなるため、運動をあまりしていないと、骨も強くなりづらくなります。

実は、骨量を増やすのは思春期までが肝心です。骨量は20歳ごろにピークを迎えると、その後は加齢とともに減少していきます。大人になってから運動や栄養に気をつけても、減少の速度をゆるやかにすることはできますが、骨量を増やすことは難しくなります。思春期のうちにしっかり運動し、栄養を摂って骨の量を増やす=骨貯金をしていないと、将来の骨粗しょう症のリスクが高まってしまうのです。


20代頃のピーク時の骨量が多ければ、将来骨粗しょう症になるリスクを下げることができる



スポーツ障害とは? 予防策は「休息期間をとること」

一方、「部活を週5日やっている!」「学外でクラブに参加している!」といったスポーツ熱心なお子様の場合、ぜひ気を付けてあげたいのは、スポーツ障害です。

木村先生「運動をたくさんするのはとても良いことですが、運動すればするほど、怪我は増えやすくなります。日本の場合は同じスポーツをずっとやり続ける傾向があるため、体の同じ場所をずっと使うことで、スポーツ障害につながりやすくなっています」

例えば、野球です。小学校からはじめて、高校まで続けている人も少なくないでしょう。
野球肘」が甲子園の投球制限で有名になったように、投球を続けることで肘に負担がかかり続け、痛みが生じます。
テニス肘」「オスグッド病」「疲労骨折」なども主なスポーツ障害です。
同じ場所への負担を避けるためには、1つのスポーツだけではなく、様々なスポーツに取り組んでもらうのが良いのですが、それは難しいですよね。

そこで心がけていただきたいのは、1年の間に休息期間をしっかりとること。

休むと言っても、そのスポーツを全くやらないのではなく、負担の多い部分を休ませ、他の部分を鍛える期間にすることを提案してあげてください。
休息期間中のトレーニング方法については、ぜひ信頼できるかかりつけ医を持ち、相談してみましょう。
日頃から、スポーツに詳しい医師を探しておき、怪我や痛みについて相談しやすい環境を作っておくことが大切です。
病院では、接骨院や鍼灸と異なり、レントゲン撮影などの検査をして、診断をつけることができます。
単なる捻挫だと思っていたら、その背景には剥離骨折があった!ということも
そんな時、これまでの傷病履歴を知っていて、必要な検査ができるかかりつけ医がいれば、より適切な治療を行うことができます。
土日に部活や試合があると、とりあえず開いている病院に駆け込むこともあると思いますが、その後改めてかかりつけ医の診察を受ける2ステップができると安心です。

木村先生「ケガをしたときや痛みがあるときは、我慢したり、気合でなんとかしたりせず、ちゃんとした診断を病院で受けて欲しいと思います」


腱や靭帯の怪我の処置は「PEACE&LOVE」を覚えましょう!

それでは、腱や靭帯などを痛めてしまった時、より早く復帰するためには何を心がければよいのでしょうか。
今回覚えていただきたいのが、「PEACE&LOVE」です。
怪我の治療に平和と愛???と疑問が浮かんでしまいますが、これは軟部組織を損傷した時の処置について、頭文字を並べたもの。
「PEACE」は怪我をした直後に、「LOVE」はPEACE処置の後・怪我をして数日してから行いましょう。

P Protection 保護 
  怪我をした後の数日間は痛みを伴う活動や運動を避ける

E Elevation 挙上 
  怪我をした部位をなるべく心臓より高く上げておく

A Avoid anti-inflammatories 抗炎症薬を避ける 
  組織が回復しづらくなるため、抗炎症薬の服用を避ける。アイシングも避ける。

C Compression 圧迫
  弾性包帯やテーピングで腫れを抑える

E Education 教育
  医療者は適切な対処法を教え、患者が不必要な治療や検査を受動的に受けることがないようにする

L Load 負荷
  痛みと相談し、負荷を上げるタイミングを体に相談しながら、少しずつ日常生活に戻す

O Optimism 楽観思考
  自身を持ち前向きになることで、最適な回復ができるよう、思考を楽観的にしておく

V Vascularisation 血流を増やす
  痛みを伴わない有酸素運動を行い、修復中の組織への血流を増やす

E Exercise 運動
  回復に向けた積極的なアプローチを行い、体の可動性、筋力、自己受容感覚(固有感覚)を取り戻す

参考:Dubois B, Esculier JSoft-tissue injuries simply need PEACE and LOVEBritish Journal of Sports Medicine 2020;54:72-73.
翻訳:筆者(有田一花)


ちょっと覚えづらい単語も多いですが、覚えていると怪我の時にとても役立ちます。
具体的な単語が思い出せなくても、「PEACE & LOVE」という言葉だけでも、頭の片隅にメモしてみてください。
ご家庭の壁などに掲示するのもおすすめですよ。


運動嫌いなら、楽しめる運動を探すところから 

運動する習慣のない子、運動があまり好きではない子に運動してもらうのは、なかなか難しいと思います。
しかし、冒頭でお話したように、骨量が増えるのは20歳ごろまで。
思春期のうちに運動をして、骨貯金をしっかり蓄えた方が良いのは間違いありません。
運動は頭の働きを良くするため、勉強にも効果があります。

とはいえ、運動は楽しむことが一番。
無理やりやらせたり、「運動しないと大変なことになるよ!」などと脅かしてしまっては、ますます運動が嫌いになってしまいます。
ひとくちに運動といっても、球技やランニングだけではありません。
ダンスやヨガ、リングフィットのようなゲーム、もちろん散歩も、立派な運動です。
興味を持ち、楽しいと思える運動を見つけることが、骨密度を高くする第一歩です!
ご家族の方は、本人が無理なく取り組める運動スタイルを応援してあげてください。



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