汗中乳酸値の連続モニタリングを用いた新しい運動評価法の開発

慶應義塾大学医学部内科学(循環器)教室の関雄太助教、福田恵一教授、スポーツ医学総合センター勝俣良紀講師、佐藤和毅教授、整形外科学教室中島大輔特任助教らは、心疾患患者の心肺運動負荷試験中に汗中乳酸値を連続モニタリングすることで換気性代謝閾値(心臓リハビリテーション処方における重要な指標)を推定することが可能であったと報告しました。

現在、生体バイオセンサを用いたさまざまな取り組みが開発され、医療にも応用されています。我々は、皮膚にバイオセンサを貼付することで連続的かつ痛みを伴わずに乳酸値(運動負荷が強くなると産生される物質)が測定できるウェアラブル機器(汗中乳酸測定ウェアラブル機器)を開発しました(図)。適切な強度の運動(有酸素運動)は心疾患発症や悪化を予防し、質の高い生活をより長く続けるために重要とされています。そこで、本研究では、心血管疾患患者において本機器がきちんと作動するかどうか、及び有酸素運動がどのレベルかを評価できるかを検証しました。

慶應義塾大学病院で心肺運動負荷検査を行った42名の心疾患患者を対象としました。患者の額に汗中乳酸測定ウェアラブル機器を装着し、呼気ガス分析とともに汗中乳酸値を連続モニタリングしました。徐々にエルゴメータの負荷が上昇するプロトコールで運動を行うと、汗の乳酸値は、運動途中から上昇を開始し、運動終了後はすみやかに低下しました(図)。そこで、汗中乳酸値が急激に上昇したポイントを汗乳酸性代謝閾値(LT; Lactate threshold)と定義し、呼気ガス分析で測定した換気性代謝閾値(VT; Ventilatory threshold)との相関性を検討しました。結果、相関係数は0.71と比較的良好な相関が観察されました。

 今回の研究では、汗中乳酸値の測定から得られた汗乳酸性代謝閾値で換気性代謝閾値を推定できることが示されました。この方法は従来の呼気ガス分析と比べてより簡便であり、高価な機械も要しません。このようなシステムが普及することで心疾患患者のリハビリテーションをより普及させる可能性を秘めていると考えられます。

本成果は、2021年3月2日に国際学術雑誌の「Scientific Reports」に掲載されました。

汗中乳酸測定ウェアラブル機器を用いた嫌気性代謝閾値の推定

論文
タイトル:A novel device for detecting anaerobic threshold using sweat lactate during exercise
タイトル和文:汗中乳酸測定ウェアラブル機器を用いた嫌気性代謝閾値の推定
著者名:関雄太、中島大輔、白石泰之、竜崎俊亘、伊倉秀彦、三浦光太郎、鈴木真人、渡邊崇量、名倉武雄、松本守雄、中村雅也、佐藤和毅、福田恵一、勝俣良紀
掲載誌:Scientific Reports
DOI:doi.org/10.1038/s41598-021-84381-9