2020/12/02

連載:ドクターのスポーツ傷病記録――第2回 勝俣良紀先生「ゴルフ部キャプテンとして大切にしてきたチームマネジメント」

スポーツ医学総合センターのスタッフは、医師であると同時に、一人のスポーツ経験者でもあります。
連載「ドクターのスポーツ傷病記録」では、スタッフが実際に体験した傷病について、スポーツの思い出と共に語っていただきます。

第2回は、10月よりスポーツ医学総合センターに所属された勝俣良紀先生にインタビューさせていただきました。中学から高校まで参加していたサッカー部の思い出と、大学時代のゴルフ部でのチームプレーについてのお話です。

勝俣良紀(かつまた・よしのり)先生

慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センター専任講師
平成17年 慶應義塾大学医学部卒業、平成25年 同大学院医学研究科博士課程修了、平成26年内閣官房 健康・医療戦略室 参事官補佐を経て、慶應義塾大学医学部救急医学に帰室。平成30年より慶應義塾大学医学部内科学助教、令和2年10月より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本不整脈心電学会専門医、心臓リハビリテーション学会認定医、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医。

(取材・文:有田一花))



毎日全力で、怪我をしたときも全力だった

――まずは、これまでのスポーツのご経験について教えていただけますでしょうか。

「中学から高校のときはサッカー部に入りました。ゴルフは大学の部活動で始めました。サッカー部に入ったのは、小学校の頃にサッカーが苦手だったので、克服してみようと思ったのと、当時丁度Jリーグが始まった年で、サッカーが盛り上がっていたのがきっかけです。球技が好きだったんですが、蹴るのは苦手で、野球の方が得意でしたね。
中学の頃に合宿に30人ぐらいで行ったのですが、ゴキブリは走っているし、狭いし汗臭いしで、大変でしたね……(笑) 朝練があって、早く起きなくてはいけなかったはずなのですが、みんなで大遅刻したんです。みんな寝ていたんですよ。それでみんなで怒られて、罰として走らされたりしました。当時はそういう時代でしたからね(笑)」

――苦手なスポーツをあえて選ばれたんですね!

「そうですね。今考えると不思議ですが……そもそもあまりサッカーは得意ではなかったので、チーム内でいつも12人目、13人目ぐらいでした。試合には時々交替で出るとか、時々先発で出るというような感じでした。高校1年生か2年生のとき、たぶんすごく調子が良かったんです。しかしその時の練習試合で、ゴールキーパーと交差するようにボールを追いかけてぶつかり、ふくらはぎがかなり腫れる怪我をしました。結局それで試合に出られませんでした。しばらく松葉杖だったのかな。歩けないほどではありませんでしたが、すぐに復活というわけにはいきませんでした。
つまり、レギュラーにはなれなかったということですね。でも、毎日全力で生きていて、その時も全力でしたから。人生には色々な選択が起こりますが、自分が決めたことですし、怪我したことも、試合に出たくて頑張りたかったんでしょうね。だから、しょうがない。いいんじゃないでしょうか」

ゴルフの団体戦 チームプレーならではの緊張感があった

――大学時代はゴルフをされていたんですね。

「ゴルフは大学で勧誘されて始めました。普通は個人競技ですが、部活では団体戦があるんです。4~5人のスコアで争うチームプレーです。ゴルフ部ではキャプテンも務め、チームも大会で優勝したこともありました。
当時は、毎週土日にチームメンバーと一緒にキャディのアルバイトもしていました。アルバイトが終わると、その後タダでラウンドさせてもらえました。平日など空いているときも来ていいよと言ってもらえて、練習しに行っていたんですが、何回かは台風の日でした。大変でしたね(笑) びしょ濡れになって、風で飛んでいきそうになりながらも、チームメイト4人ほどで練習していたのを覚えています」

――個人競技のゴルフとはかなり感覚が違うのでしょうか。

「違います。自分が勝った負けたというだけなら少し気持ちも軽いんですが、自分が打った一打がチームの一打になるので、緊張感があります。結局は自分のスコアを良くするしかないんですが、プレッシャーは大きいですね。チームなのに、その場には自分ひとりしかいませんから。仲間とハイタッチできるわけでもなく、黙々と修行しているような感じでした」


チームが強くなるためには、目標に向けて全員が自主的に取り組むことが必要

――先ほど、キャプテンを務めていたと仰っていましたが、キャプテンとして大切にされていたことはありますか?

「自主性が出るような環境やマインドを作ることです。中学や高校の時は言われた通りに、『監督が走れと言ったら走る』で良かったのかもしれないですが、大学生になってくると、それぞれのやりたいことや価値観が出てきます。そこで強制しても、チームとして強くはなりません。みんなで同じやり方をしても、同じパフォーマンスは出せないですよね。優勝するということを部活の目標としたうえで、それに向けてそれぞれ、今自分が何をするかを考えるということが必要だと思います」

――具体的な声掛けなどはされたのでしょうか。

「先輩が取り組んでいる姿を見て、後輩も自分で『こうしたほうがいいのかな』と思ったりしますよね。だから練習を毎日何時間やれというようなことは言わないです。強くなりたければやるだろうから。強くなりたい、勝ちたいと思うことが必要です。チームを優勝できるようなところまで持っていくには、いかに本人たちをやる気にさせるかだと思います
例えば、試合には出られないかなという程度の実力の人がいるとして、そういう人は時々怠けたくなることがあるかもしれませんよね。でもそこで怠けないような環境を作ってあげる。ゴルフは単純にスコアが良ければ試合に出られますから、スコアを出せば試合に出られるんだよと分かってもらう。極端な例を言えば、親がすごい人だからとか、仲がいいからというような私情を挟まないことです。あまり上手くない人でもモチベーションを保てる環境を作っていかないと、チームとして力が出ないと思います」

――全員が自主的に取り組む環境を作ると。

「色々な価値観の人がいて、それぞれの人生がありますから介入はできません。でもその中で、この場所ではこの目標でやろうねという全員の同意が必要です。上手い人だけが目標に向かうのでは、負けることもあると思います。
今も同じで、医師もそれぞれ色々な人がいる中で、同じ方向を向いてやっていこうとしています。大人になるとそれぞれ多様化していきますから、どんどん難しくなってはきますが、私はそういうチームプレーの方が楽しいんです」

――チームとしての強さを目指すということでしょうか。

「強い人が偶然いて、その人がいたから勝てたけどいなくなったら負けてしまうというのは、いいチームが作れていない、チームで勝っていないということです。私が参加していた当時は、チームの誰が出ても勝てるようにと考えていました。10人のうち9人のスコアでも勝てるチームを作るということです」

――良いチームを作るために腐心されてきたのですね。

「私たちが優勝した年の後も、たしか10年ぐらい優勝したと思うんです。自分たちの代の功績は数年後に現れるはずなので、自分たちが勝ったのは先輩が教育してくれたおかげだと思いますし、自分たちがやってきた指導が間違っていないかどうかは、数年後に分かるんだと思います」

――ありがとうございました!

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